はじめに

『歩き出す』ときや『階段の昇り降り』などの動作のとき、突然膝や股関節に痛みが走ったことはありませんか?これらの動作は、わたしたちが日常生活を送るうえで避けては通れません。しかし、年齢を重ねるにつれて大きくなる膝や股関節の痛み・・・その原因のひとつが「変形性関節症」といわれています。当科では、骨や筋肉、関節といった運動器の治療を行っています。ここでは股関節の痛みの治療に有効な人工関節置換術についてご紹介します。

股関節のしくみ

股関節は脚の付け根にある関節で、胴体と脚の間にあります。ここでは、大腿骨の丸い部分(大腿骨頭)が骨盤の受け皿の部分(臼蓋)にはまり込んでいます。関節部分の骨の表面は軟骨でおおわれ、股関節にかかる力を吸収するとともに大腿骨頭と臼蓋の動きをスムーズにしています。股関節は、人が立ったり歩いたりするときに体重を支える役割をにない、歩行時には体重のおよそ3倍、立ち上がりでは体重の数倍の重さがかかるといわれています。そして、時にはその軟骨がすり減り、やがて大腿骨頭と臼蓋の骨と骨が直接こすれて骨が変形してくると痛みを感じたりこわばりを生じたりします。一般的な原因には変形性股関節症 関節リウマチ 大腿骨頭壊死症があります。また、転倒などによる骨折も歩行が困難となる原因のひとつです。

健康な股関節
関節炎の股関節

変形性股関節症

股関節が痛くなる代表的な病気で、子供の頃の先天性股関節脱臼の後遺症や、股関節が浅い臼蓋形成不全などが原因となることが多いですが、加齢により股関節の軟骨がすり減ってしまうことが原因になることもあります。症状としては、歩行時などに脚の付け根(股関節)が痛み、股関節の動きが制限されるようになります。痛みが強い場合は、人工股関節置換術や骨切り術を行うことがあります。

健康な股関節
変形性股関節症

人工股関節置換術について

人工股関節置換術とは、すり減った軟骨と傷んだ骨を切除して金属やプラスチックでできた人工の関節に置き換える手術です。人工股関節は金属製のカップ、骨頭ボール、ステムからできており、カップの内側には軟骨の代わりとなるプラスチックでできたライナーがはまるようになっています。骨頭ボールがライナーにはまることで、滑らかな股関節の動きが再現できます。痛みの原因となるすり減った軟骨と傷んだ骨が人工物に置き換えられて痛みがなくなることで、日常の動作が楽になることが期待できます。

手術前
手術後
手術後

当科の特徴

ナビゲーションシステムを用いた人工股関節置換術

2021年からナビゲーションシステムを導入しており、手術の安全性が向上しています。術前のCT画像検査データより、3次元骨モデルをコンピューター内に構築し、立体的に術前計画を立てることができます。手術中はその情報を赤外線を用いてリアルタイムにコンピューターが反映、その誘導で骨を正確に削り、1mm、1度単位で人工関節を適切に設置することができます。これによって、手術の安全性の向上はもちろん、可動域の改善、脱臼率の減少、正確な脚長補正、長期の耐久性が実現しました。手術時間も1時間程度と短く、難治症例も手術可能です。

術前計画
術中画面

真皮縫合で抜糸が不要、傷跡を目立ちにくく

当科では真皮縫合と呼ばれる方法で手術の傷を縫合します。これにより抜糸が不要で、手術後の傷跡を目立ちにくくします。皮膚表面は糸を使用せず、テープを貼ることで皮膚を合せます。

手術直後
手術後1週
手術後2週間

術後経過

入院は2週間程度で、早期の社会復帰が可能です。ただリハビリがもっと必要な患者さんは、リハビリテーション科に転科していただき、十分にリハビリを行ってからの退院となります。低侵襲ゆえに超高齢者の患者さんでも手術ができるケースも多いです。

歩行動画(手術前)

手術前の歩行

歩行動画(手術後)

手術後の歩行(杖あり)
手術後の歩行(杖なし)

患者さんの年齢や症状などにより、回復には個人差があります。